研究概要 |
本研究の目的は、一貫してデザイン改革論者たちから「悪趣味」であると非難されつづけたランカシャのキャリコ・プリント産業におけるデザイン政策の役割を検討することである。 本年度は、主に19世紀を中心に、テキスタイル産業に対するヘンリー・コール、ウィリアム・モリスらデザイン批評家の意見をまとめ、彼らと産業家とのあいだに生じた軋轢を検証した。平成14年夏に渡英した際には、マンチェスタではアーカイブ史料の撮影、ロンドンではCabinet Maker cd Art Furnisher Art Journal, Journal of Desigin and manufacturesなどの同時代の雑誌にみられるデザイン論、テキスタイル批評の史料、およびデザイン学校や美術教育に関する当時の新聞記事を収集した。 ロンドンとランカシャの対立がどのような性格のものか把握するために重要なのが、当時試行錯誤をつづけていたデザイン教育のあり方および当時の美術の概念である。マンチェスタのデザイン学校は、絶えずデザイン学校ロンドン本校との比較でその存在意義をはかろうとした。また、ランカシャの産業家たちは、産業に「美術」が必要だという固定観念から、デザイン学校の教育内容を純粋美術教育のカリキュラムに近づけようとし、マンチェスタの地で美術展覧会を開催する必要があると考えた。 これらを検討する中で、キャリコ・プリントのデザインの生産の問題が地方における文化の消費の問題と密接に関わっていたことが明らかになった。
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