前年度に引き続き、アルカイック期初期のギリシアで形成されたと見られる叙事詩群、また抒情詩群について、古代エジプト語やヘブライ語などで記された作品群との相互比較を行うための基礎的作業を進めた。 前年度までの研究作業に加えて今年度新たに関心を向けた事柄として、神話や伝説に反映されるエリートの倫理があった。ギリシアでは、既に伝ホメロス作叙事詩やヘシオドス作叙事詩において示されている有力者の望ましい行動様式が、その後の政治体制の変転を経てもよく継受されていき、ギリシアのポリス社会の一面を規定していくが、他方、メソポタミアやエジプトでは、王ないし単独支配者以外の上層の人々の伝統的な行動様式とその変容はどのように観察されるか。叙事詩や物語の伝説や神話によって示される行動様式の範型のみならず、教訓文学や知恵文学などにも見られる興味深い比較対照事例が、法などの社会的装置の発展にどのように影響するのか考察を進めた。ギリシアに関しては、倫理と法の相互関係が、社会的資産である神話や伝説の継承の場でどのように調整されるか、という点について、基礎的・一般的な事柄を整理したものを執筆した。 また、前年度の海外出張により得た、サモス島(ギリシア)の考古学博物館が所蔵しているグリフォン頭像のデジタル画像の整理分類作業を進めた。神話的・宗教的象徴としての怪物像の相互比較研究も本計画の重要な一面であるので、エジプトなどで得た史料の整理と合わせて、引き続き来年度も各種史料を充実させ、分析作業を深めていく予定である。
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