今年度は、研究課題を遂行するための環境の整備と、問題の絞りこみ、原史料の調査・収集に多くの時間を割いた。 都市、領主、農民を核として見た場合、中世後期、とりわけ15世紀のドイツ圏は、一方で都市による領域の拡大、他方で領主層による所領経営の再編とそれに対する農民の反乱といった現象によって特徴づけられている。これら三者のあり方は相互にどのように関係づけられるのか。本研究ではまず、領主層が再編の一環として導入した「体僕制」(所領農民を体僕身分に固定することによって農民の自律性を制限し、領主の影響力を強化しようとする制度)に農民が強い反発を示し、それが両者間の抗争となって現れた際、近隣に位置する有力な都市はそれにどのように反応したのか、という問題を立てた。そしてその問題をさらに絞りこみ、都市は仲裁者として領主・農民間の抗争に積極的に関与したのではないか、そこに都市の領域政策を見て取れるのではないか、という見通しを立て、具体的な事例に基づく考察、原史料による裏づけを直接の課題として研究を進めた。考察対象とした地域は、現スイスの大都市バーゼルと村落プラッテルンである。 原史料は現地の古文書館に所蔵されている手稿のものがほとんどである。先行研究を参考に史料を見定め、一部をマイクロフィルム化してもらって購入した(入手できたのは11月:私費)。それに先立ち、充当された研究費を用いてマイクロフィルムスキャナを購入し(8月)、研究環境を整えた。現在、史料の解読を進めているが、文字は活字化されたものとは異なり、正書法が確立する以前のドイツ語の速記であるため、実際のところ解読は難航している。
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