今年度は、前4世紀後半のアテナイの政治動向を、アテナイ政治史分析の基本的単位となる「政治グループ」の概念を用いながら多角的に考察するという研究目的のため、政治グループを中心とするアテナイの政治史全体に関する欧米の最新の研究動向を整理し、さらに、前4世紀後半のアテナイで活躍した政治家・弁論家たちについて史料に即して検討を進めるという課題に取り組んだ。とくに、近年欧米で多くの注釈書や論文集が出版されている政治家デモステネスについて重点的に考察した。これまで進めてきたマケドニアのフィリポス2世の治世(前360/59〜336年)におけるギリシア世界の複雑な国際関係に関する研究を踏まえて、前338年のカイロネイアの戦いに至るまでのマケドニアの諸行動に応じたデモステネスの政策の分析や、デモステネスに対する評価の問題の整理を行なった。終生反マケドニアの立場を貫いたととらえられがちなデモステネスの政策には、必ずしも反マケドニア的なイデオロギーだけでは説明できない部分が多いこと、この時期のアイスキネスらとの角逐には個人的な要因も大きく作用していたこと等の試論を、法廷弁論や碑文史料の検討から導き出した。プロソポグラフィッシュなデータの豊富なデモステネスについては、その政策やグループ構成、他の政治家との関係を考察することが比較的容易であるが、史料の少ないエウブーロスやヒュペレイデスらについてのデータをさらに集めて個々の政治グループの構成員や相互関係、活動内容を細かくあとづけ、政治グループを中心とするこの時期のアテナイの政治動向の変動を検討していくことが、今後の課題となる。
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