本研究は、大規模な社会変動を経験していた19世紀のフランス・パリにおいて、カトリック教会がそれにいかに対応したのかを、市行政との関連に注目しつつ明らかにするものである。扱う時期は政教協約期の1801年から1905年で、地理的範囲はセーヌ県とする。 本年度は、研究課題のうち、教区の設置・再編の研究に主として取り組んだ。まず、平成14年夏に1ヶ月間の現地調査をおこない、パリ市歴史図書館やフランス国立図書館に所蔵されている当時の地図を閲覧して、教区の設置・再編の様子を明らかにした。つづいて、それを当該地区の人口、産業構造、社会階層などと照らし合わせて、それらが教区のあり方の変化とどうかかわっているのかを検討した。 カトリック教会は、19世紀末までは宗教生活の基盤を教区という空間単位に求めており、都市化や人口増加には主に教区の分割・新設で対応しようとした。それが、20世紀になると、都市を多様な社会として認識しはじめ、教区という空間単位の活動よりも目的別の活動を重視するに至ったようである。 今後は、教会関係者、市議会、住民などの意識をさまざまな史料を通して分析し、脱=空間化ともいえる上記の変化をより正確に検証する必要がある。また、既存の研究がなされている他都市との比較も重要であろう。
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