今年度は、帝国史研究に国際関係の理論を応用する方法論を確立するために、国際関係論や帝国史論などの分野の図書を購入し、理論的枠組みを構築に努めた。また外国旅費を使用しイギリス、ロンドンの公文書館に出かけ、イギリス外務省、植民地省や貿易省(通産省)、防衛省の史料の収集を行った。公的史料以外にも、イギリス帝国で支配者階級であった人物の個人蔵の史料、また新聞や雑誌、旅行記などもその収集の対象となった。また現英国女王陛下の居住城の文書館、ウィンザー城への立ち入りを許可され、ここでは一般に公開されていないヴィクトリア・エドワード王朝期の貴重な史料を閲覧する機会に恵まれた。 これらは政治・外交・軍事・経済的関係だけでなく、宗教や文化的側面を明らかにするためである。これらの史料を系統立てて整理し、国際関係論の枠組みを援用しながら、歴史学的方法論で考察・分析を行い、英国の地中海権益をめぐる帝国支配のあり方を明らかにしていくためであった。地中海沿岸のオスマン帝国領内におけるイギリス帝国支配のあり方は、いわゆる間接統治、すなわち「非公式帝国」の形態をとっており、これを理解するためには、上で挙げた文書館以外に大英博物館などの博物館蔵の史料も、その文化的支配を明らかにする手段として有効であった。この間イギリスの国際関係史研究の専門家たちとも交流し、本研究課題について話すと、ぜひこの内容について、2003年の9月下旬にイギリス、ノッティンガム大学で行われる「イギリス国際関係史学会」で発表するよう依頼を受けた。ジョン・チャムリー教授などイギリスを代表する、イギリス外交史家と名を連ねて同じパネルでこの学会発表を行うことが決定し、それゆえ来年度にはさらなる研究成果が期待できるであろう。
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