今年度はほぼ計画書どおり、イギリス帝国の地中海権益について、過去二年間にわたる資料収集や研究成果を二度にわたる国際学会で報告する機会に恵まれた。7月のロンドン近郊のサセックスで行われた「コブデン学会」ではイギリスにおける自由貿易の理念がイタリアなどの地中海貿易圏でいかに生かされ、イギリスの帝国利害においても成果をあげた実例を報告した。また9月のイーストアングリア大学で行われた「イギリス国際関係史学会」では、「イギリス帝国の地中海圏における政治・経済ネットワーク、1882〜1919年」として、スエズ運河を中心とするいわゆるイギリス帝国のインドへの通過地点の要について、フランスやイタリアなどの他の列強との政治・経済外交的関係について、政府レベルの公的関係だけでなく、人的つながりを通じた非公式なネットワークを通じて、イギリスがいかにその権益を拡大したかについて論じた。この発表においては、今後の研究の発展にとって大変有効なコメントを、イギリス帝国史・外交史・文化史の専門家からもらうことができた。これらの学会の発表の合間をぬって、イギリスとイタリアでは有益な史料収集やリサーチを行った。また国内においては大阪、京都、東京を中心に様々な学会・研究会に参加し、近い研究分野の研究者と研究の打ち合わせや研究交流を行い、日本の学会での本研究の位置づけを確認し、研究の発展に役立った。こうした国外・国内旅費に加えて、出版されているイギリス帝国史・国際関係史関係図書及び資料の購入に研究費を充てた。また本研究の内容は、有斐閣出版社から出版される『イギリス外交史』(佐々木・木畑編)の第二章の「パクス・ブリタニカから世界戦争へ」の執筆にも生かされ、論文としての成果発表の運びとなった。本稿は研究論文でありながら、教科書としての役割をも担っており、学生などのより広い層に対して研究成果を発信できる最良の好機となったと確信している。
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