今年度は、国教会伝道協会およびロンドン伝道協会の宣教師名簿を調査し、海外におけるキリスト教ミッション活動にかかわった女性たちについて検証した。 19世紀初頭、主として男性宣教師の妻、娘あるいは姉妹など、家族の一員としてミッションの現場に赴いた女性たちは、女性、子どもを対象とした教育や医療活動をすすめ、非宗教的な分野で積極的に非ヨーロッパ世界に一夫一婦制に基づく家族制度、衛生概念や身体観などというヨーロッパ的な価値観の導入を試みた。 19世紀後半になると、ヨーロッパで医師、教師、看護士などの専門的な高等教育を受けた女性たちが女性宣教師の身分を得て海外に活路を見出すようになる。彼女たちもまた、非ヨーロッパ世界の女性、子どもたちにかかわることで、「ヨーロッパ近代的」な価値観がグローバル・スタンダードとして世界化するのに大きな役割を果たしたことが解明された。 本研究では、従来男性宣教師中心に分析が進められてきたキリスト教ミッションについて、女性たちが、多様な立場から、積極的にかかわったことを明らかにした。 女性をキーワードとして考察を進めると、非ヨーロッパ世界においてヨーロッパ近代的家族観、身体観、価値観はヨーロッパ本国のそれと比べ、非常に短いタイムラグで伝わり、各地で変容をとげつつも、伝統的な世界観と並存しつつ、新しい世界観の構築がなされただけでなく、女性たちの立場にも大きな変化を与えたといえる。
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