本年度は、従来の私の研究テーマであった全国禁酒法問題に対する階級あるいは階層による女性の取り組み方の差異について、「母性」「女性市民」をキーワードとしつつ取りまとめた。その際、特に、働きかけられてもこの問題にほとんど関心を示さなかった労働者階級の女性と、彼女たちとは社会階層の上では真逆に位置しながら同様にこの問題に距離をおこうとした知的エリート層の女性とに注目し、禁酒法問題に積極的に取り組んだ女性たちの「母性」や「市民」意識と彼女たちのそれとのずれを中心に考察した。全国禁酒法論争に積極的に参加した女性たちの大半が中産階級以上で、かつ給与あるいは賃金報酬を受ける職業についていない女性であった。その彼女たちが論争の中で展開した「良妻賢母」像や「個人的自由」を守る「女性市民」像は、「キャリア・ウーマン」であった知的エリートの女性や労働者であった女性に大して共感をもたらさなかったことを本年度の研究で明らかにし、それの歴史的な意義づけを行った。この成果については、近々に共同研究として出版される予定である。 また本年度は、従来の研究視野を拡大し、あらたに女性労働組合連盟(WTUL)をはじめとした労働組合運動に見られる中産階級と労働者階級女性の連帯と反発、革新主義時代からニューディール直前までの福祉政策推進者がシェパード・ターナー法のような政策の立案・推進に際して描いた理想とその政策の対象者が暮らす現実との食い違いについて、考察を開始した。新しく取り上げた事象に関しても、従来の研究からひき続いて、「ジェンダー・アイデンティティ」「階級ないしは階層」「人種あるいは民族」の3つの要素が、どのように女性の社会的・政治的動きに影響を及ぼしていたのかということに注目して考察を行った。
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