朝鮮半島における初期農耕の多様性を理解していく上で、まず自然環境条件や歴史的展開の中で当地域の初期農耕を位置づけていく必要がある。そのため、平成14年度は、初期農耕段階で栽培されたと考えられる各穀物の生態的特徴、朝鮮半島の気候や地形などの自然条件、朝鮮・中国の農学史の研究成果について、資料収集に努めた。これらの知見をもとに、農耕関連遺跡のデータを見直すと、栽培植物の出土例は、従来認識されていたような地域的偏在性はなく、自然環境の違いを超えて朝鮮半島の中・南部に広く、イネと他の雑穀類が混在して分布することが判明した。このことから、初期農耕段階には各地域の最も条件の良い場所を選んで栽培が行われたのではないか、という仮説を立てるにいたった。 上記の見通しのもと、平成14年度は調査事例の多い慶尚道地域で集中的に遺跡踏査・発掘調査見学を行った。山地が多く河川下流域の沖積平野の発達が弱い慶尚道地域では、丘陵を開析する谷部や河川中流域の沖積微高地などが、青銅器時代には主に農耕の適地として利用されている。特に後者については、現地調査および最近刊行された晋州大坪里遺跡の報告書などから、畠作土の構造や、地力の枯渇に対応した畠作技術の特徴について、当地域の特質と思える新たな知見を得ることができた。 また、韓国で行われた学術シンポジウムにおいて、日本列島の初期農耕の特徴を整理・発表し、朝鮮半島との比較を行った。
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