研究実施計画に則り、15年度はおもに中国・四国地方における古墳時代中期の土器資料の収集、ならびに現地での資料実見を行った。 山陰地方と瀬戸内東部(岡山県・香川県<一部>)の土師器に関しては、畿内の土師器と形態が酷似しており、時期が下るにつれて生じる変化(高杯では口径や脚部の縮小化・調整の簡略化等)も共通するため、比較的容易に畿内との併行関係をおさえることができた。変化に時間差がないか確認する必要はあるが、畿内と同一の編年指標で当地域の土師器を検討できる可能性は高い。特に、鳥取県東部(鳥取市等)の資料は、細かい成形技法(杯底部裏側に付く棒状圧痕・内面調整・暗文の使用等)まで畿内の資料と共通するものが多く、両者が古墳時代中期の土師器生産(流通)において緊密な関係にあったことが指摘される。一方、スリップの多用や、古墳時代前期から見られる属性(例:甕の口縁部の形状)が中期後半まで維持されるなど、この地域に特有な地域性も確認された。なお、技術伝播が畿内と山陰のどちらを起点にしておこったかは、現時点では判断することが難しく、今後の検討課題として残った。 広島県・愛媛県など瀬戸内西部の土師器は、畿内よりも北部九州と形態・技法において共通点が多い。また、高知県では対岸の宮崎県に類似するものがあるが、極めて限定された地域色を示す土師器が分布することがわかった。これらの地域の資料については、隣接地域間で併行関係を把握し、徐々に畿内編年に近づける作業を進めている。 そのほか、東海地方と畿内の併行関係を示す資料の追加と、両地域の地域色が及ぶ範囲を把適するため、地理的に中間に位置する滋賀県(おもに湖南地域)で資料調査を行った。ここでは、(1)古墳時代前期に比べ東海地域の影響が少ない、(2)集落により畿内系土師器の占める割合に多少がある、(3)2〜3市町村規模で小地域性がみられる、ことが明らかになった。
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