本年度は7回(計15日間)の国内資料調査と2回(計14日)の韓国での資料調査を行った。 もっとも力をいれたのは折衷土器の研究である。特に古墳出現前後には格子タタキが施された在来土器が西は壱岐島から東は金沢までの各地で発見されており、その数は13遺跡に及ぶ。昨年度の概要で指摘したように、布留甕など通常タタキメを残さない器種にも格子タタキメが残されており、単に平行タタキが置き換わっただけではないと思われる。また、口縁端部や突帯の上面に格子タタキを施す例も存在するが、北部九州で平行タタキを用いて同様の調整を行っている例がわずかながらあることから、その関連性を検討する必要がある。 一方、慶尚南道南部の折衷土器、特に布留甕の器形を採用した格子タタキの土器について重点的に調査を行った。朝鮮半島では酸化焔焼成の土器で格子タタキや縄蓆文タタキを施した土器には、ハケ調整が施されることがほとんどない。しかし、朝鮮半島の布留甕の器形を採用した土器には一部でハケ調整が見られた。また、釜山市の東莱莱洞遺跡では慶尚南道在来の長胴甕あるにもかかわらず、格子タタキの後、ハケが施されている土器が存在することが明らかになった。両地域の土器に見られる交流は一方向でなく、相互交流的であるのがわかる。以上のような研究内容の一部は『第15回東アジア古代史・考古学研究会』(於東京)にて発表した。 また、今年度では対馬でも資料調査を実施した。昨年度の研究成果において、日本列島で出土する朝鮮半島系土器は、全羅道や忠清道といった朝鮮半島南西部に系譜が求められるものが多いことが明らかになったが、対馬では距離的に近い慶尚南道の土器が多いことを確認することができた。ただ、楽浪土器が極めて多く、朝鮮半島南西部の土器も存在するのは、対馬を経由して朝鮮半島の文物が北部九州などに渡来したことを示しているのであろう。
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