本研究では、東北地方で石器石材として利用される硬質頁岩の産地帯に立地する遺跡と、それ以外の遺跡の間で、石材の利用状況(石材選択を含む)に差異があるのかを比較検討することを目的としている。分析対象遺跡には、共通した石器製作技術基盤を持つ遺跡が好ましいと考え、本研究では「東山系」石刃石器群を対象に選んだ。「東山系」石刃石器群は発達した石刃技法を保有し、基部加工の東山型ナイフ形石器、エンド・スクレイパー、小坂型彫刻刀形石器を特徴的に組成する石器群である。代表者は既に頁岩産地帯に立地する「東山系」石刃石器群の原産地遺跡、山形県お仲間林遺跡の分析を終えている。今年度は昨年度に引き続き、東北地方・北陸地方の日本海側で頁岩産地帯の外にある地域に立地する遺跡を対象に、出土資料を実見・調査・分析を行った。具体的には山形県新庄市南野A遺跡、乱馬堂遺跡、山屋A遺跡、石川県辰口町灯台笹下遺跡出土の旧石器資料を材料工学的な手法により測定・分析した。その成果については、「東北地方日本海沿岸における石器石材の利用-東山系石刃石器群の分析から-」というタイトルの論文として平成15年5月に公表予定である。 来年度は、東北地方太平洋側及び北陸地方に所在する東山系石刃石器群に分析対象遺跡を広げる予定である。具体的には、岩手県大渡II遺跡、峠山牧場遺跡、新潟県円山遺跡、長野県太子林II遺跡、富山県眼目新丸山遺跡出土資料の測定・分析をおこなう。その上で、頁岩産地帯に立地する遺跡(原産地遺跡)と非頁岩産地帯に立地する遺跡の石材利用状況を比較検討する。
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