平成14年度は、本研究の目標である、平安文学における仏教思想と日本固有思想との混淆状況の解明に先立ち、その準備として、仏教思想・日本思想関係の研究状況を把握する一方、既に研究が進展しつつある中世文学における神仏習合思想の影響の研究に学び、また、自ら問題の一つを考究した。 具体的には、金春禅竹により十五世紀半ばに成立した『明宿集』その他の能楽論書における、山王神道の影響を中心に研究を行った。 『続天台宗全書 神道1』所載の『山家要略記』をはじめとする山王神道の諸書や、『三輪大明神縁起』等の三輪流神道の諸書、さらに慈遍の『天地神祇審鎮要記』などの叙述と、禅竹の『明宿集』『六輪一露秘注』等の伝書を比較検討した結果、禅竹の翁論が神仏・神々間のネットワークを構築する一体説を総合・止揚して成り立っていることが明らかとなり、さらに、禅竹の六輪一露説の形成に、山王神道・三輪流神道の伝承が影響を与えている可能性が高いことが判明した。 こうした研究を行う過程で、中世の神仏習合状況と平安時代との関わりが見えてきた。比叡山延暦寺の天台宗と密接な関係を持つ山王神道は、その教説を整備していく際、円珍や都良香、菅原道真、大江匡房などが書いたとされる書物を引用する形で、論を形成している。これらが仮託と判断される場合でも、たんに偽書・仮託とするだけでなく、その由来・由縁を追究することが、平安時代の文学における神仏関係を解明する糸口になると考えられる。
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