本研究「近世後期都市江戸における歌壇・結社の研究」は、江戸時代後期、とりわけ文化・文政期から天保期にかけて、江戸を中心とする文化的状況を歌人・国学者の作った歌壇・結社という観点から研究するものである。平成14年度においては、資料の収集および整理に多くの時間と労力を費やすことを目標とした。まず、入手可能な歌書版本約20点の購入を行なった。これは国学者の注釈書や歌集を中心とするが、本研究のためには必要不可欠のものである。次に入手困難な当該書の紙焼写真の入手を行なった。今年度はおもに天理大学図書館所蔵の「村田春海遺書雑集」のうち、小山田与清と清水濱臣が関わった類書の写本が中心である。三つ目として、広く同類の版本・写本を見て、しかも形態的特徴を記述するために国文学研究資料館が所収した全国各地の図書館・文庫所蔵の版本・写本の紙焼写真を検討対象とした。以上3点にわたる文献資料の収集・調査は順調にすすめられ、所期の目標を達成した。 また、本年度の研究成果として、上記資料を用いて行った「をかし、おかし別語説の成立と受容」がある。これは「をかし」という語のほかに「おかし」なる語が古代において存在し、意味の相違によって使い分けられていたとする宣長説が、いかに広まり、そしていかに批判されていったかをたどったものである。結論的には葬り去られた説ではあるが、国学の結社の内外において、さまざまな軋轢の中で、新説を受け入れるかどうかという選択に関して、個々人の判断が示されるということを述べた。必ずしも適切な説のみが受容されないという結論は、学史研究が結社(研究者グループ)という観点抜きには追究し得ないということを補強するとともに、来年度の研究の前提となることでもある。
|