研究概要 |
1 ハンセン病 (1)小川正子「小島の春」の研究(学会発表) 平成14年度に行った取材・資料収集の結果判明した小川正子「小島の春」問題について,分析・考察した研究成果を,「聖戦のディスクール--愛と抑圧の『小島の春』」と題して学会発表を行った(日本近代文学会九州支部大会,於県立長崎シーボルト大,6.22). 昭和10年代長島愛生園医官であり,患者の収容活動に従事し,「小島の春」を著した小川正子は聖医として称揚されているが,その一方で小川は「小島の春」において,非人道的な療養所内の実態や長島事件を「救癩」というヒューマニズムの美名において隠匿するばかりか,社会に向けて療養所生活を「楽園」であるかのように宣伝する役割を積極的に果たしていた. (2)明治・大正期の文学作品とハンセン病の研究 当初,明治・大正時代に発表されたハンセン病を取り上げた文学作品「対髑髏」「団扇太鼓」「輪廻」について,ハンセン病が物語においてどのように表象されるのかを考察する予定にしていたが,(1)の発表後,論文化の作業に手間取って計画を果たせなかった. しかし研究過程の中で,北條民雄「いのちの初夜」について分析・考察した結果を取りまとめることができた.その中で,ハンセン病患者が療養所に入所することで,自分の存在を社会的にも対自的にも他者として受け入れざるを得ない自己分裂の状況が出現していたことが明らかになった.また,遠藤周作には「私の・棄てた・女」の他にも,ハンセン病に関する小品・エッセイが存在することが判明し,戦後のハンセン病に関する言説として研究対象とする必要があることが判明した. 2 エイズ 今年度も,1の研究に時間・予算の大半を割くことになり,エイズ関連の新聞記事を集めたり,資料を収集したりするにとどまった.
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