1、馬瀬狂言資料の分析と関連資料(映像資料も含む)の収集 まず馬瀬狂言資料の中で、所収曲が十曲以上の、台本としてまとめられた形のものを中心に、翻刻を行った(翻刻の作業は全てパソコンで行い、そのままデータベースとして活用できるようにした)。主なものとして、最古本と思われる文化二年奥書の『狂言大義』、『目近他』(仮題)等である。これらを諸流(特に和泉流)の狂言台本と比較・検討し、その位置づけを今後明らかにする。また馬瀬狂言や仙助能との関係が指摘できる国会図書館蔵『祖家秘書狂言大全集』も収集し、翻刻作業を進めている。映像資料としては、馬瀬狂言の上演(馬瀬神杜祭礼・伊勢の伝統の能楽まつり)を収録した。 2、馬瀬狂言の特徴について…馬瀬本「こんくわい」の考察 馬瀬狂言独自の曲である「こんくわい」の翻刻と、その変遷についての考察を行った。この曲は本来、伊勢神宮の遷宮の際に行われるお木曳で上演されるもので、諸流の「釣狐」に比べ、一曲の前半にある狐の語リが縮小され、後半の猟師と狐のわなを巡る争いに歌舞の趣向を加えたものである。この台本は文久三(1863)年のものであるが、お木曳関係資料の調査(神宮文庫、神宮徴古館等)により、天明八(1788)年にこの「こんくわい」に類するもの(「釣狐の崩し」)が上演されたことが明らかになった(これは馬瀬狂言の最古の上演記録でもある)。更にこれらの資料から、曲中の馬瀬独自の部分がお木曳という空間と深く関わること、また当時すでに馬瀬の人々が狂言になれ親しみ、その技量もあったことが推測されることを指摘した。
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