国立国会図書館、内閣文庫、前田尊經閣、東洋文庫、大倉集古館、京都府立総合資料館、京都大学附属図書館、天理大学附属図書館、韓国ソウル大学奎章閣等に於いて、前年度に引きつづき元刊本、朝鮮版、五山版の調査、収集、複写を行い、モンゴル時代の出版物のリストの整理、分析を継続中.その過程において、「混一彊理歴代国都之図」をはじめとする地図、1998年に韓国で発見された高麗、朝鮮王朝時代の翻訳機関で教科書として用いられていた旧本『老乞大』を切り口に、14、15世紀の東アジアの文化が未曾有の規模で交流、渾然一体として共有されていたことを実証した。「混一彊理歴代国都之図」は、1402年、朝鮮王朝の「王権」のシンボルとして作成された重要な地図であるが、元になった二種類の中国地図、及びその作者について、詳細がわかっていなかった.が、これまでに収集してきた漢籍のデータによって、二種類の中国地図の復元、作者の経歴、当時の知識人の世界観、中国文化の「知」の港であった慶元(現在の寧波)の重要性、なぜ1402年にこの地図が作製されなければならなかったのか-高麗から朝鮮への王朝交替、太宗のクーデタ等の時代背景、この系統の地図が何故現在、日本に伝来しているのか等が新たに判明した。また、『事林廣記』という類書(百科事典)が、中国はもとより、朝鮮王朝の種々の制度規範、日本では鎌倉、室町時代の五山僧、度会家行、北畠親房、後醍醐天皇等に愛読され種々な日本文化の形成に多大な影響を与えていたこと、最も古いテキストが、日本に伝わること等も明らかになった。同様に、モンゴル朝廷で刊行された「翻訳」体の書物とモンゴル朝廷の翻訳システムが、朝鮮王朝においても、ウイグル貴族(大元末期に高麗に亡命)によって継承され、外交に大きく寄与したことも明らかになった。
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