平成15年度の研究では、前年度に引き続き、唐代の伝奇小説や『全唐詩』『唐代墓誌彙編』等の資料に見られる「風流」の用例、及び教養ある女性に関する資料を収集・分析した(【研究の目的】の3)に対応)。また、唐・元槇の『鶯鶯伝』が、元・王実甫の『西廂記』へと改編されていく過程で重要な作品の一つとされる、北宋・趙令畤の「元微之崔鶯鶯商調蝶恋花詞」(以下、「蝶恋花詞」と略称)の全訳注をすすめた(【研究の目的】の4)に対応)。その結果、従来指摘されることはなかったが、(1)「蝶恋花詞」は、単に詩句のみならずその主題においても、白居易の「長恨歌」から本質的な影響を受けていること。したがって、2)「蝶恋花詞」は、美人の害悪を強調し、鶯鶯との離別を正当化した『鶯鶯伝』の主人公・張生(=作者・元槇)の立場を、明確に否定した作品である、という従来の作品理解には、根本的に修正されるべき点があること、が判明した(【研究の目的】の4)に対応)。 本年度は、上記の点を緒論として小論「「長恨歌」と北宋「蝶恋花詞」」にまとめたが、次年度はこれを論文及び訳注資料として完成させる予定である。その際、本研究のキーワードである「妓席」「風流」「多情性」が重要な鍵概念であることは論をまたない(【研究の目的】の1)2)に対応)。
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