研究概要 |
申請者の専門分野である「生成文法理論」は、英語学および言語学に属し、人間の言語能力の背後にあると考えられる生得的な言語知識、すなわち「普遍文法」の解明を目指している。この大目標のもとで、申請者は、現在までに、言語の構造と意味に関わる2つの重要な現象である、数量詞の作用域と(束縛)代名詞の分布について研究しており、本年度も、その領域でのいくつかの研究成果を発表した。その成果は2つに大別できる。第1は、『英語の主要構文』(中村捷・金子義明編、研究社出版)の第22章と24章および『極性と作用域』(奥野忠徳と共著、研究社出版)に収録されている。これらはそれぞれ、演算子の作用域と束縛代名詞の分布についての過去30年の研究成果をまとめた上で、最新理論に基づく申請者自身の提案を加えた、英語学初学者のための入門書であり、生成文法研究者のための啓蒙書である。申請者の第2の成果は、日本英語学会の機関誌であるEnglish Linguistics 19(2)に掲載されている論文"Conditional Clauses in Japanese and Binding Theory",English Linguistics 20(1)に掲載される予定の"Microparametric Syntax and Minimalist Syntax,"ならびに『市河賞36年の軌跡』に掲載される予定の「束縛理論(B)再考」に収録されている内容である。これらは、日本語と英語とフランス語の条件節ないしは仮定法節の主語位置に現れる指示代名詞の解釈上の制限が言語ごとに異なっているという事実に対して、生成文法理論の最新版である極小主義理論の枠組みのもとで、一定の反証可能な説明を与えたものである。なお、申請者は昨年度刊行の単著『A Unified Theory of Verbal and Nominal Projections』(Oxford University Press)に対して、本年度、第36回市河賞を受賞した。
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