主に英語と日本語における言語障害データを収集し、これまで集めてきた音韻獲得・発達に関するデータ(平成12-13年度奨励研究(A))と照らし合わせながら分析することが本研究の目標である。 今年度は具体的に、まず日本語の失語症の「いい誤り」のデータを収集し(105例)、音韻的側面から分析した。これまでのところ、障害データにおける言い誤りは大半のものは素性を基準に考えるよりも分節音レベルで考えた方がよい、ということがわかった。この結果はShattuck-Hufnagel(1979)が英語におけるスピーチエラーに基づいて出した結果を支持するものである。また、これまでの研究において、英語では[voice]素性が誤りに関与しやすいのに対し、日本語ではこの素性に関する誤りがほとんど観察されないということ、また、英語では「例外的」音過程として処理されている「後舌化」が日本語では一般的である、という日英語の相違点があることを報告した。これらの結果を障害データと照らし合わせたところ:1)失語症のデータでも[voice]素性に関する誤りがほとんど観察されない 2)通常の日本語発話と異なり、失語症データには「後舌化」がほとんど起きないということがわかった。 この研究成果は香港で開催された"11th Meeting of the International Clinical Phonetics and Linguistics Association"及びマレーシアにおける"International symposium of linguistics and speech-hearing sciences 2002""という2つの国際会議において発表し、それぞれの会議におけるSelected papersのひとつとして選ばれ、出版されることになっている。
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