研究概要 |
主に英語と日本語における言語習得及び言語障害データを収集し、有標性の観点から分析することが本研究の目標である。 昨年度は日本語の失語症の「いい誤り」のデータを収集し、音韻的側面、特に素性に基づいた分析を行ったが、今年度は幼児の音声データをさらに収集し、障害データと照らし合わせながら分析をするとともに、日本語のデータを、より上位概念である「分節音」、「音節」に焦点を当てて分析を試みた。 その結果:1)日本語においては一番エラーが起こりにくい母音は/a/、逆に一番エラーに関与しやすい母音は/e/であること 2)子音では/∫/,/s/,/k/,/z/が他の子音に変化しやすく、/t∫/,/s/,/t/,/∫/,/k/がエラーのターゲットになりやすい傾向にあること 3)英語のエラーにおいては子音は子音、母音は母音と交替するが、日本語は通常発話のデータにおいても障害データにおいても特殊モーラは子音から母音、あるいは母音から子音へと交替することが頻繁に観察される傾向にあることがわかった。特に3)に関連し、特殊モーラについて幼児対象に実験を行ったところ、韻律単位としての特殊モーラの習得はかなり遅れるということが新たに明らかとなり、日本語における有標性の基準を今後明らかにしていく上で重要な手がかりとなるものと思われる。 この研究の成果はスペインで開催された"15^<th> International Congress of Phonetic Sciences"及びハンガリーにおける"38^<th> International Colloquium of Linguistics"という2つの国際会議で発表した。さらに、国内では上智大学で開催された「国際言語情報研究所創立25周年記念大会」のゲストスピーカーとして招待された際にも成果の一部を発表した。
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