本年度の科学研究費補助金交付開始より、筆者はアメリカ社会、及びその文学作品において提示される、いわゆる「ジェンダー教育」、中でも、「少年」を社会へ貢献する理想的な「男性」へと作り上げるシステムである「男性化教育」が、個人のアイデンティティ形成にどのような影響を与えるかについて研究を開始した。今年度は、アメリカで「男らしさの危機」が叫ばれた、といわれる19世紀末から20世紀の転換期における状況を歴史学、文学、ジェンダー学の立場から積極的に資料を収集し調査した。また、2002年10月5日北海道大学言語文化部にて開催された、第46回日本英文学会北海道支部大会において、「『アーサー王宮廷のコネチカットヤンキー』におけるジェンダーアイデンティティの問題について」と題した19世紀米国の作家マーク・トウェインの作品についての研究発表を行い、補助金交付後初めて、研究成果を学会に問うことができた。この口頭発表論文は、研究者による評価が大きく分かれる問題作品に対し、「男性」を焦点におく従来には見られなかった分析を試みたもので、論証の点において不十分な点も散見されたが先進的な研究であると評価された。そのときに多数の研究から提示された様々な意見を参照し、現在はこの口頭発表をさらに発展させた研究論文を学会誌に投稿すべく鋭意執筆中である。来年度は当初の計画にあるように、全国規模のものを含む複数の学会における口頭発表と海外のものも視野に入れた評価の高い学術雑誌への研究論文投稿を予定している。なお、この研究が現代の日本における「男性」をめぐる諸問題を検討する場合にも大変有効であり、進展が強く求められていることは、各種団体からの講演依頼やフォーラムのパネリストとしての出席依頼が寄せられていることによっても明確であることを、補足事項として書き足させていただく。
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