本研究の目的は、ヘミングウェイの作品および未発表原稿における同性愛者に注目し、クイア理論を用いながら、性的アイデンティティがどのように確立されていくか、同性愛者の身体がどのように可視化されていくか、そのメカニズムを探っていくことであった。そのため今年度はヘミングウェイの短編作品の中から同性愛を主題にしたものを数編選び、その解釈にあたった。それらの作品群では、同性愛的身体は、他者の視線にさらされることによって出現していることが確認された。つまり同性愛的身体は、それを知覚する他者の知の対象として出現し、他者の知への意志を満足させるために、パフォームされ、ドラマ化される。同性愛的身体にはトランスジェンダーが押印され、その印が他者から認知されることによりはじめて身体は同性愛者のそれとして可視化される。そめため同性愛者の身体は客体としてのみ存在することになり、主体性が否定されてしまうのである。セクシュアリティとジェンダーに関わるこうした構図は、作品の視点がどこに置かれているかを考察することで明らかになっていったものである。今後の研究では、今年度の研究成果を踏まえ、作品におかれた視点が、異性愛体制とどのような関係にあるかを探りながら、ヘミングウェイ作品における同性愛者の身体についてさらに研究をすすめていく予定である。
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