平成14年度に引きつづき、英文学者たちが第2次世界大戦に、どのような文化共同体を形成することを目指したかを歴史的に分析した。平成15年度は、とりわけ1960年代以降に、いわゆるマイノリティとの共生を目指して試みられた、英文学者の諸活動に注目した。その研究の成果が、平成15年5月に創刊する『阪大英文学叢書1・病と身体の英文学』に所収の論文「難病の視覚的表象-戯曲、映画、テレビの中のジョゼフ・メリック」である。以下にその梗概を示したい。 1960年代以降の市民権運動の流れの中で、英文学者たちもまた難病の表象という新たな問題に遭遇したことを、この論文において論じている。元来、英文学は、異形のものを主人公としたゴシック小説を文芸的、歴史的に分析してきた経緯がある。そのため、著しい身体的変形を伴う「プロテウス症候群」を抱えた患者の表象の仕方をめぐって、さまざまな問題意識が生まれた。文学の写実という手法は、この種の患者たちの存在を社会に知らしめる有効な手段だとしても、その手法は彼らを異形のものとして他者化する危険性がある。彼らをそのように他者化することは、彼らとの共生に目覚めた知識人たちの意図に反するものであった。メリックという実在した難病患者が物語や映像を通して、どのように社会に認知されるようになり、その認知のされ方によっては、類似した症状をもつ患者たちにどのような二次的な被害がもたらされたかを、本論文では時代を追って分析している。
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