本研究の目的とは、日英米の英文学者たちが第2次世界大戦に人文学の学のあり方が問われるなかで、それぞれどのような文化共同体を形成することを目指したかを歴史的に分析することにあった。研究年度のうち平成14年度から15年度にかけては、主に戦後から1960年代を中心に調査を行った。最終年度にあたる平成16年度は、英文学者などによる難病(特にプロテウス症候群)の代弁=表象という問題に焦点を絞って、1960年代から1990年までの資料請査、テキスト分析を試みた。その研究の成果が、英宝社刊行図書『病いと身体の英米文学』の1章となって発表されている。以下にその梗概を示したい。 通称「エレファント・マン」として知られるジュゼフ・メリックは1960年代から1990年代まで、医師、文学者、伝記作家、童話作家、人権運動家、劇作家、映画監賢、劇評家、ミュージシャンなど多くの語る位置にある人々に、代弁=表象の機会を与えてきた。本論のねらいは、メリックを代弁=表象した記述は単なる文献ではなく関係であることを、いくつかの例を挙げながら提案することにあった。一般化して言うと、代弁=表象の方法、主題、媒体の問題は、時間とともに変化していく社会、制度、文化と呼応しながら変化していく代弁者と被代弁者との関係の問題であることを明らかにしようとした。具体的には、1960年代からのメリックの記述や映像を文学者たちによる代弁=表象として読み直している。そうすることで、メリックの障害と見なされてきた神経線維腫症やプロテウス症候群とともに生きる人々と健常者といわれる人々との関係性のいくつかのパターンが捉えられた。
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