研究期間の2年目にあたる今年度は、コンピュータコーパスを利用して、英語の否定構文の発達を通時的に扱った。古英語後期から初期近代英語期にかけての否定の副詞notの変化(副詞としての発達と語順の問題)については、Helsinki Corpusのほかに、Oxford Text Archiveの電子テキストを利用した。調査の結果、これまでは初期近代英語期に特徴的であると考えられてきたI not sayのような構文(否定の副詞を前置する構文)が、古英語にまで遡ることが可能性がでてきた。この研究の成果は、Albionの最新号に発表した。また、近年の研究により調査が思っていたよりも進んでいないことが明らかになってきた後期近代英語についても調査を進めた。特に18世紀の英語では助動詞doがいまだ確立しておらず、否定構文と助動詞の発達の関係において興味深い事実を観察するこるができる。本年度は、この点についてもコーパスを利用して調査を進め、その調査から得られた結果を、9月の英語史研究会第10回記念大会において発表した。調査から明らかになった多くの事実の中でも興味を引くのは、同じ否定構文でもdoの使用が定着するのに時間的な差が見られ、とくに疑問文や条件文などにおいて遅れる傾向があるという点である。研究期間の最終年度にあたる来年度は、このあたりの詳細をさらに明らかにしていきたいと考えている。
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