平成14年度は、英語圏におけるポストコロニアル理論の整理、体系化を主として行った。まずポストコロニアリズムのキーワードであるハイプリッド性(hybridity)の概念を人類学、文学理論双方の観点から再検討した。そのことにより、移民、ディアスポフ文化におけるハイブリッド性を肯定的に見直すことが、文化アイデンティティを固定化したものと捉えがちな単純な多文化主義を超える視座を提供するとして評価されるべきであると同時に、「ハイブリッド文化」の表象が必ずしも第三世界における文化的抵抗運動につながるわけではないという結論に達した。成果報告として現在、論文を学会誌に投稿中である。 次に、ポストコロニアル理論の創始者エドワード・サイードの思想を、知識人の表象の問題及び第三世界ナショナリズムとの関係の面から検討した。サイードの文学批評的著作とパレスチナ関連著作を比較した場合、ナショナリズムの扱い方が異なるように思われるが、そのようなサイード思想の「揺らぎ」がどのような問題を内包しているのか現在考察中である。成果報告としては、5月25日、日本英文学会全国大会において発表を行った。 さらにまた、英語文学とポストコロニアリズムの関係に関して、特に1950年以降のキャノンの見直しの問題に取り組んだ。8月18日、国際コンラッド学会(バンクバー)で発表を行った他、放送大学の教材「イギリス文学』において1950年以降の「イギリス小説」の章の執筆を担当し、サルマン・ラシュデイ、J.M.クッチェーら、現代小説に多大な影響力を持ちながらこれまでの英文学史の教科書には取り上げられることの少なかった80年代以降の小説家を大きく紹介した。
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