本年度は、フランス古典主義時代の文学論争の実態を多面的に把握するため、主として作品刊行時に添えられた序文、論争書簡、攻撃パンフレット、文字サロン語録などの資料の収集およびその予備調査をおこなった。当初は、海外出張等を行う予定であったが、研究をすすめる順序として、先ず国内書店を通じて入手可能な関連図書の購入や文献検索など、国内にいながらにして可能な、資料の収集と分析、および予備調査を徹底して行うほうが効率的であり、最終的な成果も大きいと判断されたために、国内での調査に徹したものである。また、その一方で、現在までに入手したデータの整理にもつとめたので、来年度の研究完成に向けて「基盤となる文献(国内で入手可能なもの)」をほぼ収集・整理することができた。 また、昨年度の調査から、演劇断罪をめぐる論争や世紀末の新旧論争など目立った文学論争以外にも、古典主義時代の文学に影響を与えたテーマは少なからず存在することが判明していた。したがって、本年度は、そうしたテーマと個々の作品との影響関係について、「裏づけとなる資料の調査」や「作品の読み直し作業」が課題となっていたが、アカデミー=フランセーズにおける入会演説、追悼演説など時期を容易に特定できる文献を中心として、これに相当の時間をあてることができ、研究上の収穫は大きかった。 なお、来年度は、ブリュッセルの宗教・世俗学研究室図書室、パリのソーショワール図書館などでの資料の探索を実行する予定である。とりわけ後者は修道会系の特殊な図書館であり、古典主義時代の一部の文献に関しては、他の図書館では見ることのできない文献を豊富に備えており、ここでの綿密な調査は、今年度の実績を活かすために是非とも必要なものである。
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