本年度の前半は、前年度に執筆していたワイマール時代のモダンダンスと「新しい女」に関する論考を、文化史およびジェンダー論の視点を踏まえて全面的に改稿し、『ベルリンのモダンガール』の一章として刊行した。(2004年1月)この中で、モダンダンスの言説が、性差を揺るがせる側面と性差を強化する側面を持っていたこと、モダンダンスの言説への女性の参加、身体表現と言語表現の連動、個と共同体との葛藤などに触れた。その例としてダンカン、ヴィグマン、ベルバー、トリュンピ、レメル、ブライ、ロホヴァンスキ等の舞踊に関する言説を取上げている。本年度後半は、ベンヤミンについての基礎的な研究を行い、その一部を「『屑』としての詩人-ゲルトルート・コルマルとヴァルター・ベンヤミンにおける収集のモチーフ」として発表した。この論文は、コルマルの詩学とベンヤミンの歴史哲学について論じたものだが、アレゴリーの表象としての「屍体」の概念に触れている。(2004年2月)また国際コロキアム「ダンスの身体性-『身体表象』の構築、脱構築、そしてその後」にパネリストとして招聘され、ホーフマンスタールの舞踊家ルース・セント・デニスについての評論『比類なき踊り子』についてドイツ語で口頭発表を行った。(2003年10月)この発表では、ホーフマンスタールの舞踊についての言説を分析し、様々な文化的文脈から収集された、身体、言語、西洋/東洋、ジェンダーなどについての表象が、いかに意味づけられ配置されているかを示した。そして、この評論を、マラルメのロイ・フラー論と並ぶ、モデルネの舞踊言説の原型として位置づけた。
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