研究概要 |
本研究は,言語化(encoding)に先行する事態分析(construal)がドイツ語においてどのような傾向性を示すのかという点を,対照的観点を交えつつ明らかにしようとするものである。過去3年間で取り組んだ内容は,言語の多様性の問題を説明するという今日的な言語学の課題と重なり合うものである。また,今年度の研究から外国語教育への応用を視野に入れ始めた。 本年度は,本研究課題の締め括りとして,モノ,コト,トコロの把握に見るドイツ語らしさ(あるいは日本語らしさ)という課題と取り組んだ。日本語母語話者としてドイツ語に接していると,直訳的な日本語・ドイツ語がしばしば奇妙な印象を与えることに気づく。ドイツ語らしい表現と日本語らしい表現の間に認められるそのような相違は,多くの場合,ドイツ語や日本語の話し手が,言語化の対象となる事態をそもそもどのように把握しているのかという事態分析のレベルにおける相違に基づいている。このような観点から,一つの事例研究として,ドイツ語(日本語)におけるモノ,コト,トコロの把握のされ方を実例に基づいて検証した。具体的には,動詞句の名詞化,場所副詞句の主語化などの文法項目を観察の対象とし,複数の文法項目を横断する形で同じ傾向性--ドイツ語はモノ指向的,日本語はコト・トコロ指向的--が認められることを確認した。研究成果はベルリン日独センターにおいてまず口頭で発表し,その後論文にまとめたものを同機関誌に発表した。 また,運用レベルに重きの置かれる昨今の語学教育において,このような観点からの研究が意味するところについて考察し,日本独文学会中国四国支部研究発表会のシンポジウムで発表を行なった。この内容は現在論文にまとめているところである。
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