15年度も、14年度に引き続いて、ロトマンやウスペンスキイを初めとするモスクワ・タルトゥー学派の研究を中心に、ソヴィエト記号論の書籍・文献の収集および分析を行なった。その中には、モスクワ・タルトゥー学派の学問的な先駆と言いうるロシア・フォルマリズム、ミハイル・バフチン、レフ・ヴィゴツキイの業績などが含まれている。またソヴィエト記号論のその後の展開と言いうるエトキンド、エプシテイン、ジョルコフスキイら現代ロシアの文学・批評・文化論研究、またグッドマン、ジジェク、アンダーソンなど西欧および英米系の記号学・記号論などの文献資料の収集・分析にも努めた。この目的で北海道大学スラブ研究センター、同大学部文学部、東京大学文学部スラヴ語スラヴ文学研究室、早稲田大学文学部等に赴いた。また併せてこれらの機関の研究者と意見交換等も行なった。 15年度には下記4点の研究論文を発表した。これらはいずれも、現代ロシアの文学・文化、あるいは文学史・文化受容を対象として、本研究で獲得した知見の適用を試みたものである。 また15年9月16日と17日にロシア連邦サハリン国立大学で開催された国際シンポジウム「日本とロシア:文化の対話と相互影響」に参加し、「大正期におけるトルストイの受容について:日本の作家広津和郎と正宗白鳥の場合」と題する報告をロシア語及び日本語で行なった。これは比較文学史の領域にバフチン及びロトマンの方法の応用を試みたものである。
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