本研究は、中世ロシア・キリスト教正教文学において種々の口承モチーフがどのように作品中に浸透したかを追求することを通じて、キリスト教文化と在来のスラヴ的異教的伝統がいかに融合し、どのような文化的所産を生んだかを課題としているが、本年度はロシアに流入したキリスト教文化についての考祭を進めるために文献、映像資料収集のための調査旅行、収集した文献、映像資料の収集、整理をおこない、ロシア正教文化の起源となったコンスタンティノープル正教会文化に関して次のような洞察を得た。コンスタンティノープル正教会はイコノクラスムを経てローマ・カトリックとは決定的に袂をわかち、ロシアはその伝統を継承しているものの、その美術、文学に現れた中世ロシア正教会文化の素朴で力強い特質は、洗練されたコンスタンティノープル文化よりも初期キリスト教(4-6世紀)に通じるものがある。ロシアのキリスト教受容は、キリスト教全般において初期キリスト教的純粋性の復活という意味をもっていたと考えられる。
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