まず、朝鮮語教育の最大の隘路のひとつである文字教育に焦点を当て、『朝鮮語実物教材(1)』を作成した。授業において、大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国のさまざまな「実物」資料に書かれた朝鮮語の語句を実見して読むことは、いわゆる「なまの」朝鮮語に触れる機会となり、学習者の学習モチベーションを維持・向上させる有力な手段となる。しかしながら、これらを「実物」によって示すことは、資料の収集・管理、あるいは教室のクラスサイズなどの諸々の要因のために、困難を伴うことが多い。本教材は、これら「実物」資料をデジタルカメラで撮影し、教室での利用を意図して集成したものである。これを直接あるいは実物投影機などを用いて利用することにより、簡便かつ容易に「実物」資料を提示することが可能となる。資料の収集にあたっては、上記のように南北朝鮮のものを中心としつつ、中国・日本をはじめとする諸国のものをも対象としたことによって、本課題の視点のひとつである「総合的朝鮮観」の涵養にも裨益するものである。 つぎに、『日本で学ぶ朝鮮語』を作成した。従来の教材では、表記法・発音に関する事項と文法事項を平行して習得していく必要があるものが一般的であり、とりわけ学習時間数の限られている高等学校の課程においては、両者とも不十分な習得に終わることが少なくない。それを考慮し、基本的な文字・発音の学習の後、前者に関しては可能な限りいったん保留し、できるだけ少ない文字・発音に関する知識の活用により、基本的な文法事項の習得を優先したものである。 また、外国語教育のイデオロギー的側面に関する論文「「ことばの魔術」の落とし穴」(山下仁・植田晃次編『「共生」の時代に(仮)』三元社、2005年夏刊行予定)も本研究の一部を成す。
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