研究概要 |
2003年度は1920年代のソヴィエトにおける精神分析の受容,および当時の文学作品に現れた精神分析の影響について概括的な調査を行い,その1部を学会報告や紀要論文の形で発表した。また,過去数年にわたって研究を継続してきた作家オレーシャについての研究書を刊行したが,調査の1部をそこに反映させると同時に,オレーシャと精神分析の関係についての論文を欧文で発表した。 20年代のソヴィエトにおける精神分析の受容については前年度に行った研究を継続しながら,特に当時なされた「フロイト主義論争」に関する資料を一橋大学経済研究所などにおいて収集し,その概要を明らかにした。また,この論争の中心にいた児童学者ザルキントに注目し,彼の思想の概要を明らかにすると共に,その基礎に精神分析の影響が見られることを明らかにした。それについて,日本ロシア文学会で報告すると共に,『稚内北星学園大学紀要』4号に発表した。 また,1920年代から40年代にかけてのソヴィエト文学,特にザミャーチン,ビリニャーク,フセヴォロド・イヴァノフ.ゾーシチエンコの作品に現れた精神分析の影響を明らかにするための基礎的な調査を北海道大学,東京大学,ロシア国立図書館(ペテルブルグ)で行った。また,当時のソヴィェトの精神分析運動における文学への関心についても,札幌大学を中心に調査を行った。 オレーシャについては90年代より研究を蓄積してきたが,その成果を著書『沈黙と夢-作家オレーシヤとソヴィエト文学』(群像社)として公刊した。オレーシャの創作に見られる精神分析の影響についてはその中に1章を割いて記載し,社会主義リアリズムの成立過程において無意識に対する評価が変容する様を明らかにした。また,論文"Yury Olesha and Freudism"を執筆し,Japanese Slavic and East European Studies,24号に発表した。
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