2002年度の研究は、当初の研究実施計画に沿って、(1)日本語関係節構造の分析に必要なデータの集積、(2)語用論的な分析に必要な理論的枠組みの整備、の二点に重点を置いて進められた。前者については、現在流通している日本語の諸データを電子化する作業を行い、データの集積を断続的に行っている。データの入力と照合には労力を要するため、作業のための人手を措置した。また、ウェブ方式によるデータ集積については、効率的にデータ集積する方法を検討しており、次年度にデータ集積の実験デザインを確定し、作業を行う。後者については、日本語における関係節構造が、格助詞によって関係節における主名詞の統語的性質を表示できないものとできるものが、連続的に分布していることを、まず、理論的に確認する作業を行った。つづいて、表示不能なもの(いわゆる「外の関係」と呼ばれるもの)が成立するための語用論的な条件を整理し、「随伴物」「位置関係」「意味内容」の三類型を立てることで説明可能であることを明らかにした。このうち、「随伴物」という説明原理については、テンスやアスペクトによって解釈に違いが出る可能性があり、テンスやアスペクトと主名詞の意味解釈について、従前の枠組みを整理し直し、精緻化する作業を進めた。この成果の一部については、刊行図書に含まれているが、今後の研究の成果を含めて捉えなおした枠組みと規則化については、次年度以降に公表する。特に、長期記憶に収蔵されている情報を引き出すことをマークするアスペクト辞の機能について、新たな知見を得られる見通しを立てている。また、日本語の関係節構造に見られる形態と統語の非対称性は他の多くの言語にも見られるが、これを意味的な関係節と統語的な関係節に分離することで説明可能か、また、これを一般的な言語類型論に導入可能かについて検討作業を続けてきた。この成果も次年度中に公開する。
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