今年度は、アイスランド語とフェロー語の前置詞表現の対照研究を行なうための準備として、アイスランド語における前置詞表現の調査・分析を中心に行なった。特に、動詞表現と密接に関わって使用される前置詞句の用法についての調査を行なった。今年度の補助費は、アイスランドでの資料収集を行なうための旅費にあてた。 現地調査で得られた資料の分析から、まず前置詞の種類ごとに用例を分類し、次いで意味的な観点から共通性をもつ前置詞表現をグループにまとめる作業を行なった。 前置詞には、結びつく名詞類の格が一種類に限定されるものと、二種類の格の可能性から意味に対応して一方が選択されるものがある。問題となる前置詞句は、動詞が表わす動作との意味的な関係において、(a)動作の向かう方向、(b)静止した場所、(c)動作の起点、の三つに大きくグループ分けされる。 アイスランド語では、いわゆる「所有の与格」が極めて限定された範囲でしか使用されないのであるが、その一方で、主語や目的語の領域と、前置詞句に含まれる名詞類との空間的関係を、上述の前置詞句を用いて明示的に表現する傾向が強いことがわかった。 他動詞文においては、語順の特徴として、問題となる前置詞句に代名詞(特に再帰代名詞)が含まれる場合、また、目的語と前置詞句に含まれる名詞類との間の一体性が強く認識される場合に、目的語よりも前に前置詞句が現れる傾向があり、特に動作の起点を表わす前置詞句が代名詞を含む場合にこの傾向が強い。 次年度はフェロー語における前置詞表現を調査し、アイスランド語のデータとの対照研究を行う予定である。
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