今年度は、昨年度のアイスランド語の前置詞表現の調査・分析に続き、フェロー語における前置詞表現の調査・分析を中心に行なった。今年度の補助費は主として、フェロー諸島での資料収集を行なうための旅費と、アイスランド語およびフェロー語関連の書籍の購入にあてた。 今年度の研究成果の一部は、「フェーロー語の所有代名詞と所有の属格と所有関係を表わす前置詞について」と題する論文の形で『金沢大学文学部論集言語・文学篇』第24号に投稿し、現在印刷中である。 フェロー語では、所有関係の表示に使用される形式としてアイスランド語と同様の所有代名詞が保たれている一方、所有関係を表わす属格の用法が衰退し、それに代わってさまざまな前置詞表現が発達している。上記の論文では、フェロー語の所有表現のうち(i)全体と部分の関係と(ii)親族関係を表わす表現の二種類を扱い、それぞれの関係について所有者を表わす名詞類が(a)所有代名詞、(b)所有の属格、(c)前置詞句(複数)のいずれで表現されるかという分布を記述した。記述にあたっては、いわゆる名詞句階層の考え方を援用し、所有者を表わす名詞類の種類に注目して整理すると、使用される表現の分布傾向が説明できることを示した。また、親族関係の表現においては所有代名詞ないし所有の属格が多用されるのに対し、全体と部分の関係の表現においては前置詞が多用されるという違いがあることも明らかにした。アイスランド語とフェロー語の違いは、主として前置詞表現の種類と使用分布に関するものであり、上記の論文では注の形でこのことに触れている。 次年度は、昨年度と今年度の研究成果をもとに問題点を整理した上で追加調査を行ない、アイスランド語とフェロー語の前置詞表現の対照研究としてまとめる予定である。
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