14年度は、当研究の初年度ということもあり、当研究の基礎的部分をなす、中国語を母語とする日本語学習者の発話データの収集、中国語音声学・音韻論の文献収集および中国語音声学・音韻論の概要の把握、そして中国語の音声・音韻と日本語の音声・音韻の対照研究の一部となる日本語における母音の無声化についての研究に力を入れた。この日本語の母音の無声化の研究については海外の学会において一回の研究発表を行った。 当研究課題(「中国人日本語学習者の発話に見られる『不明瞭さ』の音声学的研究」)で言う「不明瞭さ」とは日本語母語話者が感じるものであるため、日本語母語話者の音韻論的知覚、そしてその音韻論的知覚を引き起こす刺激となる音声学的事実を明らかにすることは本研究課題にとって研究の基礎部分を成すものである。特に日本語における母音の無声化という現象が中国語を母語とする日本語学習者の発話中の「不明瞭さ」と関係があるように思われるため、本年度は日本語における母音の無声化の音声学的実態を明らかにすることを目標とした。 本年度の研究では、日本語における母音の無声化の実態を音声学的に分析することにより、母音の脱落と声帯の振動の弱化と捉えられてきたいわゆる日本語における母音の無声化のうち、後者として捉えられるものの多くは、むしろ音声学的には子音として見なされる場合が多いことを示すことができた。このことは、強い気息を伴う子音を持つ中国語を母語とする話者の話す日本語において、無声子音音素がどのような音声実現を持つか、また、日本人の多くがいわゆる母音の無声化を用いるような音韻環境においてどのような音声実現を持っているか詳細に調べる必要があることを示唆しているように思われる。
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