研究概要 |
第3年度は、第2年度に行った予備実験の結果を引き続き精査することから、当初の研究計画の見直しにつながる示唆を得た。すなわち、心的辞書における語彙アクセスの実態を調べるための実験として、アクセント研究(Kitahara,2001)で用いた同定課題(identification task)のみでは限界があることが明らかになった。同定課題では、視覚的に提示した候補の中で、どれが聴覚的に提示した刺激に一致するかを同定させる。アクセントの微妙な違いは一般の被験者にとって注意して聞かなければわからない差異であることが多いため、この課題でも適当な難易度が得られた。一方分節音レベルの差異は簡単に識別できてしまうため、刺激にノイズをかけて予備実験をいくつか行った。しかし、広帯域ノイズをかけることが知覚に与える影響は分節音の種類によって様々であり、分節音の全ての対立を網羅しようとすると統一的な扱いが難しい。たとえば摩擦音や破裂音はノイズの中では極めて識別が難しくなるが、鼻音や流音はそれほど影響を受けない。したがって、/kama/「鎌」、/kata/「肩」、/kasa/「傘」の最小対立単語群の中で、/kama/-/kata/や/kama/-/kasa/の対立は/kata/-/kasa/の対立に比較して弁別しやすいことになる。難易度の統制のためのノイズの付加が弁別構造に不均等な効果をもたらしてしまっては、本来調べるべき要因の効果が明確にならない。そこで、次回の研究において反応時間を主たる独立変数とする新たな実験を計画中である。
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