時制の一致のない日本語とロシア語・ポーランド語との比較、そしてそれらの言語と時制の一致のある英語の比較分析により、Kusumoto 1999ではこれら三つの時制の一致のない言語間に見られる共通点は間接話法などの命題態度動詞の埋め込み環境に限られ、それ以外の環境、例えば、関係詞節や時の副詞節では、これらの言語は異なる振る舞いをすることが明らかになった。またそれを基に時制の一致の有無と埋め込み環境の種類が関連するという仮説が提案された。本研究の目的は研究対象言語に韓国語、ヘブライ語を含めこの仮説をさらに検証することである。本年度(平成14年度)は、日本語、英語の名詞修飾構造(関係代名詞節、分詞節)の研究を継続し、時制を含む定形節である関係代名詞節と時制を含まない分詞節の時の解釈には違いがあるとする仮説を発展させた。特に日本語の非過去の「た」形と「ている」形の分布とその意味の類似点や相違点がこの仮説により説明されうると考えられる。日本語との類似点が多く指摘される韓国語にもこの仮説が当てはまるのかについても調査を開始した。韓国語の名詞修飾構造は、日本語にはない関係代名詞(に相当する形態素)が3種類認められ、それらが時制形態素と相まって作用するため日本語よりも複雑な体系を成している。また、副詞節についても日本語と全く同じではなく、英語に似た振る舞いをする側面も見られた。これは仮説により予想されることである。韓国語は日本語よりも時制解釈の幅が広いと結論付けられるであろう。ヘブライ語に関しては文献が少ないこともあり、基本的なことしかわかっていない。特に分詞節の分布が他の言語と異なっていることが興味深い。さらなる調査によって時制の一致のない言語の時の解釈の解明に有意義なデータを提供してくれるであろう。
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