平成15年度の研究計画は、計画書によると「裁判における言語使用の陪審、参審員、(裁判員)及び裁判官による判断への影響」というものであったが、当初の予定を変更し、本年度はイギリスやEUの法制度を学ぶことにより、これまでのアメリカに傾倒した調査から、視野を拡張することに努めた。調査を進めていくにあたり、アメリカの裁判制度を理解するうえでそのバックグラウンドとなっているイギリスの裁判制度を理解することが不可欠であると判断したためである。また、イギリスの制度もEUへの加盟と共に変遷を迎えているため、同時にEU法も学んだ。夏この夏期集中講義に参加の際、授業のみならず、当該講座の講師の一人であったbarrister(法廷弁護士)やアメリカ法との比較講座の講師であったアメリカ人弁護士達との個人的なインタビュー等を通して、イギリス、およびアメリカでの専門家証人の利用状況、問題点、法律家達の反応、制度運用上の問題点など、さまざまな有益な知見、情報を得ることができた。専門家証人の適格性判断、および専門家による鑑定の許容性判断は、言語分析を裁判過程への応用可能性の制度上の障害を探る上でもっとも重要な部分であり、この点に関して上述の情報が得られたのは今後の研究活動を行っていく上で大変有益であった。 そして、さらなる研究のヒントを得るべく、国内で日米比較証拠法、国際商事仲裁、アメリカ商事法などの集中講義を受講し、さらに外国からの法律学の専門家の講演の通訳、原稿の翻訳などを行った。これらの活動を通して得られた知見、とくに比較法思想的な面で、日米の法制度の違いを知りえたことは、今後、言語分析を裁判過程への応用可能性の議論を行う際に、大変有益な視座が得られたと実感している。 また、当初の研究目的として、法学教育への応用という記述があったが、立命館大学土曜講座の中で「裁判と言語」いう特別講座を開催してもらい、一般の受講者に分野の紹介、および意見交換を行い、さらに立命館大学法学部の授業でも「裁判と言語」いうテーマの授業を学部新入生全員に教えるという機会を得たという点で、本研究の成果を教育に還元するという目的を部分的に達成することができた。 平成16年度は研究最終年度であるが、過去二年間の間に収集した資料、情報、および平成16年度前半期に収集する予定の資料、情報を基に、研究、およびその成果の発表を、海外のジャーナルへの投稿も視野に入れて精力的に行っていく予定である。
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