研究成果としては、平成14年度に収集した日本政府の戦没者記念式典における日本政府の政治的言説のコーパスを中核にして、戦後日本の国際政治に投影されてきた「戦争の記憶」のあり方を考察し、海外での二つの学会発表というかたちにまとめた。これらは、とりわけ国家言説としての語りに見出すことができる普遍的な物語構成要素と日本特有の歴史・社会・文化的な要因との相関関係に焦点をあてた研究発表である。その際、日本がどのように敗戦体験を表象してきたのか、その創り出された国家の歴史・記憶がどのように共有されているのか、そして現在、国内外においてどのような影響をもっているのか(あるいはいないのか)、ということをテクスト分析の視点から検討した。学会発表に対しては、アフガン・イラクにおける戦後復興をめぐる国際政治の場での言説形成と比較して興味深く、示唆的な研究であるという評価を受けた。また、各々の研究発表は雑誌論文として印刷過程にある。 研究調査の方では、比較対照的な観点を入れるべく国家の言説から地方都市の政治的言説へと調査の重点を移し、今年度は広島に設立された国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の資料・文献収集を集中的に行った。この過程において、また、収集したテクストを読み解く段階において、いかに地理的・政治的な要因が語りの視点に大きな影響を及ぼすか、あらためて考えさせられている。現在、その成果を公表するため、この四月半ばに開催予定のアメリカ、ノースウェスタン大学での学会発表と、八月初めに予定されている東京、津田塾大学を会場とする第二回国際議論学会での発表原稿を準備している。 今後の課題としては、さらに広島の政治的言説のコーパスを充実させること、また、もう一つの被爆都市である長崎から発信される声を分析するための調査研究が求められる。
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