海外に投稿し、査読委員と編集長からのコメントに基づいて再校かつ推敲を重ねていた研究成果としての論文が図書の一章として掲載される知らせを受けた。図書のなかでは、(意図的に、あるいは、意図せざるとも)異文化間コミュニケーションを行っている「私たち」の「いま」「ここ」はどこへ向かっているのか、という主題の起点に位置づけられることになっている。論文自体は、図書全体のなかだけではなくコミュニケーション・スタディーズ全体において、コミュニケーションの基準がダブル・スタンダード化あるいは多重・多層化する高度情報化社会といわれる現代において、発話者の発話、その言語行動に内在する文化相的な要素が、その枠組みを越えた弁証法的な和解、再構築のコミュニケーションとなる可能性があるのか否か、また、可能性があるとすればどのように可能になるのかといったレトリック的な視点を提示する一つのケース・スタディーとしての意味をもつ。学会発表としては、全国版の日本の新聞4紙の一面における「全国戦没者追悼式」の取り扱い方を分析した研究成果をシカゴにおいて、また、未だ調査・研究の途上にあるものの広島の原爆・被爆体験の記憶化、そして歴史化への道筋を批判的に考察・分析する視点を深める上で、国立広島平和祈念館に関する研究成果を東京において各々発表した。反省点としては、教育・研究発表と同時並行であるため、研究課題として計画してはいたものの、広島での記憶の継承をめぐるさらなる調査研究と、その比較の視点を提示する上で重要な位置を占める長崎の原爆・被爆体験の記憶化、そして歴史化への道筋、その記憶の継承をめぐる調査研究は未だ手付かずの部分が多く残ってしまったことである。しかしながら、今年7月にロサンゼルスで開催される学会での研究発表も決まっているため、残された部分を今後の研究課題として継続・延長して取り組むことができるように努力してゆきたい。
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