今年度は、「宿命の女のセクシュアリティー」をテーマに、日本における「宿命の女」の解読と、明治時代の文学の中の「宿命の女」について考察した。まず、日本の文芸の中で伝統的に語られてきた「毒婦、奸婦」といった悪女たちの表象を、「宿命の女」表象との比較の中で見直した。この調査の中で、日本の毒婦たちが中国の伝説や文学における悪女たちの名前や性質を受け継いでいることが、19世紀末にヨーロッパで流行した「宿命の女」像におけるエキゾティシズムと重なるものであることを見出すことができた。この研究成果の一端が、2002年8月に南京で開催された中国比較文学会国際大会における研究発表"Representations of the "Wicked Woman"in modern Japanese literature : from the qing cheng to the femme fatale"と「地域研究』第21号に掲載された同名の論文である。また、明治の日本文学における「宿命の女」像についての論考の一部は、2002年12月に東京大学教養学部で行われた比較文学比較文化フォーラム「近代文学と「恋愛」」における研究発表「ロマンティック・ラブと女性表象-「新しい女」を巡って-」となった。ここでは、女性作家たちによって描き出された「新しい女」たちが、宿命の女のセクシュアリティーにむしろ共感する存在となっていることに注目している。なお、この調査の過程では、「恋愛」概念の普及と理想の女性像の追求が、当時の新しい女性言葉と深い関係にあることがわかった。2002年10月に鶴見大学で行われた日本比較文学会第40回記念東京大会のシンポジウム「近代文学形成期における翻訳と創作」における研究発表「「恋する言葉」-明治20年代における「恋愛」と翻訳・創作」はその成果である。
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