1.現地調査が研究者の健康上の理由により3月に延期された為、本調査の成果発表は今後行っていくものとする。 2.それまでの資料調査の後、以下の現地調査を行った。 (1)Djon Mundine(ANU)との面談、クイーンズランド美術館及びクイーンズランド大学における同氏講演の聴講。「物語」としての豪州先住民絵画への部外者の関心と、宗教的秘密を公開することに抵抗を示す人々の関係、伝統的文脈と現代的文脈の両方における物語の「所有権」について質問、現代先住民の立場からの回答を得る。 (2)Dorothy Bennett(NARU)及び同氏の協力者達と面談、"DESART"関連アートセンターを複数訪問。 (3)アーネムランド・ラミンギンニンおよびタナミ砂漠・ユエンドゥムの先住民コミュニティにて、創作者たちとの面談、活動の観察・参加、アートセンター職員との面談。資料提供と今後の継続的な協力の依頼。 (4)M.J.N.Bowles(写真家)との面談、ラミンギンニンの写真資料の提供依頼。 (5)メルボルン大学アジアリンク担当Alison Carrollと面談、日本における豪州先住民絵画展覧会について聞く。モナッシュ大学の研究者であり自身の祖母(先住民)についての著書のあるLynette Russellと面談。同大Alison Tokitaの依頼により近代化の中で変容していった日本の倫理「仁義」について講演(今回の調査とは直結しない主題だが、近代文明の浸透と伝統文化の変容という3年間にわたる研究テーマとは密接に関連する)。 3.ここまでの知見。豪州先住民文化において、美術、地質学、人類学、地理学、音楽、身体表現、法学は区分しがたく一つの「知的財産」とみなされている。このような文化と圧倒的に西欧的な現代文化の間の「知識とその表現の権利」をめぐる亀裂はいまなおきわめて大きい。しかし同時に亀裂が新たな表現を生んでもいる。
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