1、平成14年度に調査したラミンギンニンを代表する画家David Malangiの回顧展で、画家たちや創作現場にかかわる白人スタッフ、また都市の美術館の学芸員たちと行動をともにし、オーストラリア先住民絵画/物語の問題は「現代」社会の表現の問題であると痛感。「先住民」という概念自体の問い直しが必要だ。グローバル化と剥製的文化保存の間に引き裂かれる「対象」ではなく、急激な変化に困惑しつつ戦略を立てる能動的存在を認めるとき、形骸化した「倫理批評」の表層的公正さを根こぎにする本質的な哲学的・文学的問いの地平が現れる。 2、旧日本領南太平洋における英語文学の研究について、とくにハワイの多文化的状況を反映した文学に注目するなかで、逆に日系を中心とする「移民」文化に対抗するものとしての「先住民」文化の称揚、すなわち「先住民」という概念がポストコロニアル社会において排除的言説の起点になっている状況を改めて知ることになった。 3、SPACLALS(コモンウェルス言語文学会南太平洋支部会)での学会発表(於サモア大学・英語論文として投稿中)で南太平洋の英語文学への日本近代文学の影響および主題の共有を指摘、近代化=西洋化という共通の経験をここ百年余の歴史にもつ日本と南太平洋を並置して考察することの有効生を確認した。 4、南太平洋とカリブ海について以前より指摘していた比較対照の有効性を、ハワイ大学での学会で再確認できた。同時に2に記した「移民」対「先住民」という言説につきあたり、カリブ海文学のクレオール的混交性がこの二項対立をつき崩すことの政治的意味を再検討させられた(2、3については『英語青年』に書いた)。 5、本研究初年度における研究者の病気手術により妨げられた調査等をカヴァーするべく計画をいくつか変更、上記の研究活動となった。課題は残ったが、研究目的の多くは達成できたと考える。
|