本研究は、アメリカ環境行政において、規制分析手法、とりわけ環境リスク分析および費用便益分析が規制の公共性を担保する手段として法的にいかに位置づけられているか、およびその相互の論理関係を明確にした上で、これに対していかなる法的コントロールをおよぼすことが求められるかを分析することを目的としている。本年度は、そのために、アメリカにおける行政改革に関する法律および判例等、ならびにこれにかかわる論文等を収集し、また、アメリカおよびわが国の研究者へのインタビューなどを含めた調査を行ってきた。それによって得られた新たな知見等は以下の通りである。 第一に、アメリカでは、1993年に、ゴア副大統領を中心として、行政的法機構の見直しの必要性とその検討課題を提示した報告書が公表された。本報告書では、行政活動の手続的統制よりは、その結果の妥当性を重視すること、効率性を高めるために費用便益分析や環境リスク分析の積極的な導入、市場志向的規制に加えて、「協調的法執行」や「応答的規制」の活用などが主張されている。かかる行政改革の提言は、これまで、アメリカ行政法(学)の再検討と再構成をせまるものとして位置づけられてきたし、現在においてもそうである。第二に、かかる検討課題は、アメリカの環境行政領域においてとりわけ活発に議論されるようになっている。同行政領域における近時の議論は、規制改革一般の流れと同様に、市場志向的規制の活用よりも、「協調的法執行」や「応答的規制」に重点が置かれるようになっている。かかる傾向が生じた一つの要因として、行政活動の成果を重視する必要性が提唱され、環境規制費用や、総体としての環境リスクをどのように低減させるかということが重要視されてきているということが指摘できるように思われる。かかる観点から、費用便益分析や環境リスク分析をめぐる議論が活発になされている状況にあるといえよう。第三に、かかる規制分析手法の導入のあり方その法的コントロールの考察を行う際に、以上の問題に加えて、かかる手法の導入が、執行権とは区別される行政権に対する議会の非効率的な介入を克服するための一つの手法としての意味を有していることも考慮する必要がある。したがって、環境規制における、かかる規制分析手法の考察にあたっては、環境保全にかかわる権利利益の実現擁護において、それが有する意義と限界の分析とともに、総体としての規制改革にとって、それがいかなる意味を有するのかを検討する必要性が提起されてくるように思われる。
|