本年度は、フランス環境法における行政の不作為責任に関する行政裁判所を中心とした判例の分析が主な研究対象となった。 まず、フランスにおける上記の領域の判例は、当然のことながら、環境法の多様な分野によってかなり異なるものであり、これらを類型化して論じる必要がある。そのため、以下では、主体による類型分けを行い、国が有する権限と地方公共団体が有する権限を分けて主要な判例を類型ごとに要約する。 まず、環境法上の権限不作為を理由として、国の責任が問題となるのは、地方における国の代表である県知事が有する各種の規制権限である。環境法上の規制権限の多くは知事が有しているが、中でも、比較的早い時期から行政賠償責任が問題となってきたのは、化学工場などの指定施設(installations classes)に対する権限である。この領域での判例は1970年代初頭から見られる(たとえば、1972年10月17日カン行政裁判所判決)。フランスの環境法が整備されはじめたのは、1970年代後半であることを考えるとかなり早い時期から判例が形成されていたことがわかる。このようなことから、指定施設に関する判例が、環境法上の規制権限不作為を理由とした行政賠償責任のいわばリーディングケースとしての役割を果たすことになったということができ、環境法上の不作為責任を検討する上で最も重要な領域のひとつということができる。 次に、地方レヴェルでは、地方公共団の代表であるメールの規制権限、とりわけ1980年代以降地方公共団体の任務とされるようになった都市計画法に関する権限の不作為などが判例上見られる。また、最後に、1990年代以降の判例の特徴として、刑事裁判所判決が、環境法上の権限不作為に対して一定の影響力を持ち始めていることを指摘しておく必要があろう。
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