本年度は、(1)本研究の目的である日本国憲法25条1項の規範内容の明確化(課題1)と、その作業を通じて明らかにされた規範内容に適合的な「セーフティーネット」の構想(課題2)に取り組む際の比較の視座の設定を行い、さらに(2)課題1の具体的作業を進めた。 (1)については、2002年8月に、本課題における比較研究の対象であるフィンランドへの研究出張を実施し、フインランド憲法の最低生活保障規定および社会保障法規に関する研究文献・立法準備資料・判例等の収集を行うとともに、研究者、省庁関係者などへの聞き取り調査をおこなった。本研究出張の成果については現在取りまとめ中である。 (2)についてはまず、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が日本国憲法に導入された経緯とその背後にあった思想、そして憲法施行後の最低生活保障制度の展開過程を検討した。そしてその検討の過程で、公共性へのコミットメントを含む他者との関係性と、個人の自律とを両立させた「健康で文化的な最低限度の生活」像を憲法解釈として構築する際に、憲法11条前段の規定がその基盤たりうるとの手がかりを得た。そこで以上の考察をとりまとめ、2002年10月、日本社会保障法学会第42回秋季大会で報告をおこなった(論題:「健康で文化的な最低限度の生活」再考--シティズンシップの視点から)。さらにこの報告をもとに同題の論文を作成した。論文は社会保障法18号(2003年5月発刊)に掲載される予定である。
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